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hidsgo’s diary

56歳独身男(結婚暦なし)の存在していた記録

Jurassic World ~ 左巻きDNA

遅ればせながら映画ジュラシック・ワールド(Jurassic World)を見たわけだが、DNAのらせんの向きが逆だった。

左巻き

最初のほうでクレア(Claire)がスポンサー会社の3人に説明する場面。DNAの二重らせんの画像をタッチして回転させる。そのとき見える二重らせんは左巻き二重らせん(left-handed double helix)だった。予告編など公開画像/映像から引用すると、これが回転させたあとの場面だ。この画像だけではわかりにくいが、上の交差部分で左巻きのように見える。

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http://www.jurassicworld.jp/movie04.html (1:20あたり)

映画のシーンにはないが、ジュラシック・ワールドのサイトにあるインドミナス(Indominus rex)の説明ページの画像は、はっきりと左巻きを示している。

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http://www.jurassicworld.com/dinosaurs/indominus-rex/ からDNA部分を切り取り。はっきり美しい左巻き二重らせん。

DNAは右巻き

DNAの二重らせんは、通常は右巻き二重らせん(right-handed double helix)だ。

二重らせん - Wikipedia

映画の中の恐竜のDNAはアデニン(adenine)、グアニン(guanine)、シトシン(cytosine)、チミン(thymine)で構成されていることは映画で示されていて、現実の生物と同じだ。だから二重らせんも現実と同様に右巻きであると考えるのが自然だ。

ただし左巻きDNAが存在しないわけではない。上記wikiにあるが、DNAの二重らせんは左巻きの状態で存在することもあり、Z-DNAと呼ばれる。だから左巻きらせんを描くことは、あり得ない間違いというわけではなかろう。しかし通常は右巻きで、右巻きを描くのが普通だ。

もっとも、後述するが、DNAの二重らせんを描くつもりで、向きに注意を払わず左巻き二重らせんを描くことは、実はよく目にすることなのである。だから映画の中で左巻き二重らせんを見かけても、よくあること、と言ってしまえばそれだけのことではある。

あれ、右巻きも?

ちょっと気になったのは、クレアがDNAを回転させる前に右巻きDNAが見えたことである。映画のシーンではないが、コリン・トレボロウ(Colin Trevorrow)監督がクレア役のブライス・ダラス・ハワードBryce Dallas Howard)に話しているこの場面、背景はぱっと見た目右巻き二重らせんに見えた。

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http://www.jurassicworld.jp/movie05.html (0:29くらい)

右巻きと左巻きの両方が使用されているのだろうか?

映画を2回見たのだが、クレアがDNAを回転させる前に背景として見えているDNAは右巻きの気がした。しかしクロースアップされたときは、らせんの交差でどちらが上になっているか見え方が微妙で、何とも言えない。

右巻きらせんは、回転させても、上下ひっくり返しても、右巻きらせんである。くるくる回転させる映像を撮るためには、3次元モデルをなんらかのソフトで作成し、それを回転させているのだろう。回転前と回転中で別のモデルを使用しているとは考えにくいので、右巻きは目の錯覚かもしれない。

なお、ひとたびモデルが出来れば、右巻きを左巻きに変換することは簡単だ。画像を鏡像反転させればいい。モデル自体を変換するなら、3次元のx,y,zの座標値のどれか1つの軸の値を正負反対にすれば鏡像になる。

普遍的な左巻き二重らせんイラスト

実は、DNA二重らせんを右巻きではなく左巻きに描いてしまうことは、珍しくないのである。私は二重らせんのイラストを目にすると右巻きか左巻きかを見る癖がついているのだが、大雑把にいって右巻きと左巻きの割合は半々、いや実際に数を数えているわけではないので半々かどうかはわからないが、左巻きは少なからずあるということだけは言える。それはバイオ関連のシンポジウムなどのポスターや、バイベンチャー企業のウェブページのイラストなど、専門家が見るイラストでもそうなのである。描いたイラストレーターは右巻き/左巻きのことは知らなかったかもしれない。しかし指示を出す人もチェックをする人も注意していない。結局のところ右巻きか左巻きかに注意を払っている人は少ないということだ。

試しにgoogleの画像検索でDNAと入力してみる。これは結果の最初のほうのスクリーンショット

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数えてみると、ここには二重らせんの画像が35個あり、右巻きは19個、左巻きは13個、右巻きと左巻きの両方を1枚の画像に含むもの1個、右左不明なのが2個だった。ちなみに右左両方を含むものは上のほうで引用しているwikiの二重らせんのページの画像で、A-DNA(右巻き)、B-DNA(右巻き)、Z-DNA(左巻き)の画像を含んでいる(上から3段目右端)。

ネットで左巻きDNAについて指摘している記事としては、英ガーディアン紙(The Guardian)の2013年の記事を見つけた。

www.theguardian.com

新聞や映画、遺伝学専門サイトでの左巻き画像の例などを挙げ、Nature誌の表紙の例も指摘している。自然科学論文発表雑誌の総本山というべきNatureですら、というところだ。

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www.nature.com

ちなみにガーディアン紙の記事で "this sinister representation of DNA" として遺伝学専門書の表紙の左巻きDNAを指摘しているが、sinister は「邪悪な」という意味と「左の」という意味のダブルミーニングだ。

最後に

ジュラシック・ワールドに戻って、これはフィクションのエンターテイメント作品だから、厳密な科学的正しさを求めなくてもいいといえば、それまでだ。二重らせん図について言えば、向きは指摘したが、塩基はちゃんと描かれているのかとか塩基対間隔は妥当なのかとか、言い出せばきりがない。SFに科学的正しさ(scientific authenticity?)をどこまで求めるかは議論がいろいろあるのだろうが、一貫していること(consistency)は大切だろう。映画では誤って左巻き二重らせんを使用している。左と右を混ぜていたらもっと酷いのだが、右巻きの図もあったように見えたのは錯覚かもしれない。

 

* 2016-10-15 Nature誌記述一部書き直し