今日の英語
tabula rasa 予備知識や先入観のない白紙状態
ラテン語による表現(*1) 。tabula は tablet や table の語源の語で「板」。rasa は scraped とか erased とかの意味で「かき消された」。つまり tabula rasa は、文字などが消されて何も書かれていない板という意味。そのことから、予備知識や先入観のない白紙状態を表す。
英語としては時々使われる表現のようで、OALDにも載っている。
tabula rasa | Oxford Advanced Learner's Dictionary
辞書ページにあるように、発音は /ˌtæbjʊlə ˈrɑːzə/ (タビュラ ラーザ) となる。
検索すると、哲学で使われる用語でもあるようだ。
何か新しい事態に向かう時、予備知識なしの tabula rasa ではまずい場合もあるだろう。一方何か習い事をするときなど、先入観や過去の経験を忘れ去れ、頭をまっさらにした tabula rasa 状態のほうがよい場合があるだろうと思う。
実は私は tabula rasa という表現を知らず、今週こちらのNature誌の記事を見て知った。ニュースにもなったが、一昨年来話題になった囲碁AIのAlphaGoがさらに進化豹変を遂げ、AlphaGo Zeroとなった研究開発論文だ。Nature誌は購読していないと本文は読めないが、Abstractは閲覧できる(*2)。
http://www.nature.com/nature/journal/v550/n7676/full/nature24270.html
Abstractで以下のように使用されている。和訳はNature日本語要約からの引用。
an algorithm that learns, tabula rasa, superhuman proficiency
「白紙」の状態から学習し超人的な上達を示すアルゴリズム
Starting tabula rasa, our new program AlphaGo Zero achieved...
今回の新しい「アルファ碁ゼロ」は、白紙状態から始めて、...
今回登場したAlphaGo Zeroは、囲碁の基本ルールを学んだだけで、人間が長年に渡り研究して作りあげた定石やプロの棋譜を一切学ばない白紙 (zero) の状態、つまり tabula rasa 状態から自己対局による自学自習だけで強くなり、トップ棋士に勝利したAlphaGo(*3) に100戦全勝したという。AlphaGoの登場も衝撃だったが、今回のAlphaGo Zeroもすごい衝撃である。AI技術の進歩という点からも、また何千年の間に人間が考え出した手法 (定石) をコンピューターが数十日で上回り、さらに人知の及ばない新しい手法を生み出したという点で。
Nature誌のこちらの紹介記事では、論文の筆頭著者でありAlphaGoのメイン開発者である David Silver が今回の AlphaGo Zeroについて語っている動画を見ることができる。
Self-taught AI is best yet at strategy game Go : Nature News & Comment
"tabula raza learning" の一般的な手法を開発したことの重要性を述べている。上述のように、英語発音は「タビュラ ラーザ」。
*1. ラテン語表記は通常斜体にするが、面倒なのでそのまま(正体?)にしておく
*2. この記事は2017年10月21日(土)深夜に投稿したが、Natureサイトはこの週末にメンテナンスを行うとのことでその間はアクセスできない。
*3. 前回のAlphaGo関連記事。
その後2017年5月、AlphaGoは中国のトップ棋士である柯潔を相手に3戦3勝し、AlphaGo開発者のDeepMind社 Demis Hassabis は、AlphaGoは人間との対戦から引退することを宣言していた。そして今回のAlphaGo Zeroの発表となった。