独男の雑記帳

コミュ障59歳独身男(結婚歴なし)の存在していた記録

オックスフォード・コンマ (Oxford comma)

英語のオックスフォード・コンマ (Oxford comma) というものを最近知った。オックスフォード・コンマとは、3個以上の並列表記において最後の項目の前の and や or の前に付けるコンマのこと。つまり

A, B, C, and D

と書いたときの and の前のコンマがオックスフォード・コンマと呼ばれる。文意の明瞭化のためにコンマを付けるべきという意見がある一方で、やたらとコンマをつけなくてもいいという意見もある。ちなみにオックスフォード・コンマを入れないと、下の表記になる。

A, B, C and D

 

オックスフォード・コンマを付けないと意味が曖昧になる場合としてよく例に出されるのは、次のような文。まずコンマがある場合。

I talked with my parents, Dave, and Claire.

「私は両親とデイヴとクレアと話した。」私は両親2人とデイヴとクレアの4人と話をしたことになる。しかしこの文で and の前のコンマがない場合は、

I talked with my parents, Dave and Claire.

「私は両親であるデイヴとクレアと話した。」と、両親2人だけと話した意味にも取れる。もし4人と話したことを明確に伝えるには、and の前にコンマを入れる必要がある。

 

オックスフォード・コンマと呼ばれる由来は、オックスフォード大学出版 (OUP; Oxford Univeristy Press)  が並列表記でコンマを使用することを指針としているから。シリアル・コンマ (serial comma) とも呼ばれる。

 

私は並列表記の最後の項目前にコンマを入れるかどうかという問題があることは承知していたが (下述するように私はコンマ入れない派)、このコンマがオックスフォード・コンマと呼ばれることをつい最近のニュースで知ったのだった。

そのニュースはこちら。イギリスのブレグジット (Brexit) を記念して50ペンス硬貨が発行されたが、硬貨に刻印されている文にオックスフォード・コンマが欠けているとして、ある作家が硬貨を拒否を表明した。

www.telegraph.co.uk

こちらがそのコインの画像。(画像はイギリス造幣局サイトでスクリーンショットしたもの。)

f:id:hidsgo:20200201012443j:plain

Peace, prosperity and friendship with all nations

と刻印されている。

ちなみにその下には Brexit の日付、2020年1月31日が刻印されている。エリザベス女王肖像側の刻印は、ELIZABETH II・D・G・REG・F・D・50 PENCE・2020・であり、D. G. REG. はラテン語の Dei Gratia Regina (英語訳 By the Grace of God, Queen)、F. D. はラテン語 Fidei Defensatrix (英語訳 Defender of the Faith) という意味らしいです (by Google先生)。

 

問題の文、Peace, prosperity and friendship with all nations について、作家のフィリップ・プルマン氏 (Philip Pullman) が、ブレグジット50ペンス硬貨にはオックスフォード・コンマがないから教養人は拒否すべしとツイートした。つまり、and friendship の前にコンマがないのは不適切だという主張だ。賛同した人も多い一方で、誤解や曖昧さを生じない場合はオックスフォード・コンマを入れる必要はない、コンマを入れないのは間違いとする主張は間違いだなど、コンマ不要派の反対も相次いだ。

イギリスはEU離脱を問う国民投票以来3年半に渡りブレグジットか否かで侃々諤々の議論が続いたが、ブレグジット直前にコンマを巡りまたも国家を二分する議論が沸き起こったと報道されたのだった。なお造幣局は、この場合はコンマなしで意味が伝えられると判断した旨コメントしている (上記引用テレグラフ記事)。

たかがコンマではあるけれど、こんな論争が好きな向きは多いだろう。

 

自分はこの位置にはコンマを入れずに書くことが多い。ずっと昔、高校や大学くらいではコンマの付け方は意識してなかったと思う。年を取ってからイギリスの英語学校に滞在したときに、並列表記の最後のコンマは付けなくていいと指摘され、その時から意識したような気がする (はっきり覚えてないが)。オックスフォード・コンマ不要派の人たちが言うように、毎度毎度オックスフォード・コンマを付けるとやたらコンマが多くなってぶつ切り感が出てしまう。誤解を生じる場合には入れればよく、そうでなければ入れなくていい。だからといってオックスフォード・コンマ必要派を否定するものでもなく、大切なのは自分の文章の中で consistent な (首尾一貫した) 使い方をすること、という立場だった。

ただし仕事で英文をネイティブにチェックしてもらうときに、必ずオックスフォード・コンマを入れる修正をする人がいて、その人にチェックしてもらうときはあらかじめコンマを入れるようになった。まあ技術文書であればオックスフォード・コンマを入れておいたほうが無難であろう。状況に従い使い分けていく。

 

今回ネットを検索してわかったが、オックスフォード・コンマは3年前にネットでひとしきり話題になったようだ。コンマが単に文のスタイルだけの問題ではなく、賃金の支払いに及んだ事例だ。ネットに記事は多数あるが、とても興味深いのでまとめておきたい。

アメリカ・メイン州の乳製品を配送するトラック運転手が超過勤務手当を求めて会社を訴えた。会社は州法に基づいて超過勤務手当を支払わなかった。州法の条文では以下の業務は超過勤務手当の支払対象にならないとしている。

The canning, processing, preserving, freezing, drying, marketing, storing, packing for shipment or distribution of:
(1) Agricultural produce;
(2) Meat and fish products; and
(3) Perishable foods.

もし or distribution の前にコンマがあれば、

{packing for shipment}, or {distribution} of :

となり (意味区分のため波括弧を挿入)、発送のための梱包 (packing for shipment) と配送 (distribution) 作業それぞれは超過勤務手当の対象ではなくなる。つまり後者であるトラック運転手に手当は支払われない。

ところが実際の条文にはコンマがないため、

paking {for shipment or distribution} of:

というように、発送または配送のための梱包作業 (packing) が手当支払い対象外であり、梱包作業をしないトラック運転手には手当を支払わなければならないと解釈することが出来る。2017年の判決で裁判所は条文の曖昧さを認め、トラック運転手に500万ドル (!) が支払われることとなった。

なお裁判で運転手側が指摘していることだが、この条文にはコンマ以外にも曖昧となる要因がある。もし distribution (配送) を他の作業つまり、canning (缶詰め), processing (加工), …, packing (梱包) と同列に手当対象外とみなしたいならば、名詞の distribution ではなく、他の項目のように distributing と動名詞にするのが自然だろう。distribution という名詞ではむしろ shipment と対等で、paking for {shipment or distribution} と解釈しがちで、運転手側有利となる。

州の法令はその後以下のように改定されたという。

The canning; processing; preserving; freezing; drying; marketing; storing; packing for shipment; or distributing of:
(1) Agricultural produce;
(2) Meat and fish products; and
(3) Perishable foods.

セミコロンでばっちり区切りが入れられましたと。

[参考記事] 
Oxford Comma Dispute Is Settled as Maine Drivers Get $5 Million - The New York Times
A Few Words About That Ten-Million-Dollar Serial Comma | The New Yorker
法律にコンマがなくて勝訴、残業認められる! 英語圏注目「オックスフォード・コンマ」裁判 | NewSphere

 

最後にオックスフォード・コンマ必ずしも必要ではない派としてまとめておくと、オックスフォード・コンマは意味を明確にする必要がある場合は挿入する必要があるが、いつも必ず必要というわけではない。大切なのは文章の中で consistent な使い方をするということだ。