今月北海道でオーロラが観測されたというニュースが流れた。北海道で観測されたのは11年ぶりのことらしい。
11年ぶりの強い磁気嵐のため、北海道のほか地球上のあちこちの普段はオーロラを見ることが出来ない低緯度地域での観測がニュースになっている。
CNN.co.jp : 世界各地でオーロラ観測 強い磁気嵐で発生
Light show: Aurora Borealis over Scotland - BBC News
オーロラといえば、以前読んだビルケランドの伝記を思い出す。20世紀初頭にオーロラの先駆的研究を行い理論を提唱したが、存命中は受け入れられず、日本で不遇の死を遂げたノルウェー科学者の話だ。
Lucy Jago著「The Northern Lights」。
この本は2001年出版、ペーパーバック版は2002年に出版された。私はオーロラの研究者でもなんでもなく、日本で客死した学者ということが書評で紹介されていたので、どんな話かと英語の読み物として読んでみて、そしてビルケランドを知ったという次第だ。
今月オーロラ観測が話題になったので、もう一度ざっと斜め読みしてみた。以下あらまし。
クリスチャン・ビルケランド (Kristian Birkeland) は1898年に30歳でノルウェーのクリスチャニア(今のオスロ)大学の物理学教授となった。1899-1900年ノルウェー北部Haldde天文台でのオーロラ観測からこの本は始まる。その後自身のオーロラ理論の本を出版するが、特に英国科学界から否定される。さまざまなアイデアを思いつき実験で試した。オーロラを屋内で再現する装置terrelaの開発、実演を行った。電磁砲の実験も重ねたが、実用化には至らなかった。さらに、電磁砲の実験から思いついたアイデアで、空気中から窒素を固定する人工肥料の作成方法(Bikeland-Eydeプロセス)の開発に取り組み、それによりノルウェーを代表する大企業となるNorsk-Hydroの設立者の1人となった。しかし、もう1人の設立者であるSamuel Eydeへの不信、人工肥料生産でドイツBASF社との競争に勝つために強いられた激務や妻との離婚からくる神経衰弱により、睡眠薬ベロナールを服用するようになり、やがてベロナールをウィスキーで多量に服用するようになる。
環境を変えるためと黄道光を観測するために、1913年ビルケランドは若い部下とともにエジプトに赴き、スーダンその後エジプトのカイロ近くに滞在する。1914年第一次世界大戦勃発。部下やエジプトで知り合った女性など知り合いは皆エジプトを離れる。ビルケランドは、スパイに狙われているとか、戦時下で手紙が届かないことを自分が忘れられていると思い込むなど、被害妄想がひどくなる。1917年、ビルケランドの世話をしていたオランダ領時が同行し、戦争を避けアジア経由でノルウェーに帰ることにする。
1917年4月3日、日本着。日本では東大理学部で寺田寅彦に会い、数ヶ月留まることにする。寺田は以前オスロでビルケランドに会ったことがあり、terrelaも見たことがある。寺田から長岡半太郎、田中舘愛橘も紹介される。上野のホテル精養軒に滞在し、東大理学部に通い寺田と議論する。6月16日、ホテルでベロナールの過剰摂取により死亡しているところを発見された。49歳。寺田は1935年にこの件を短く書き著わした(リンク: 青空文庫「B教授の死」)。
ビルケランドの説が証明されたのは、1960年代の人工衛星による上空の観測以降である。彼のさまざまな業績や「ビルケランド電流」、ビルケランドにちなんで名付けられた月のクレーター名などにより、彼の名は忘れられることはないだろう。
長くなってしまったが、これくらいで。あくまでも私の勝手なまとめで割愛していることも多く、詳しくまたは正確なところを知りたい方は読んでみることをお勧めする。英語的には、小説ほど多彩な語彙が登場するわけではなく、ペーパーバックとして普通かやや易しい読み物だと思う。
現在ビルケランドはノルウェーの200クローネ紙幣の肖像になっている。激しく多彩な研究活動を行い数々の業績を残したが、孤独で不遇な死を遂げたのだった。
最後に、この本の最後に引用されているビルケランドの言葉を引用しておく。
“A very few lonely pioneers make their way to high places never before visited. Others follow these new paths, and sometimes the pioneers build roads so wide that the masses may follow. These pioneers create the living conditions of mankind and the majority are living on their work.”
-- Kristian Birkeland.