独男の雑記帳

60代コミュ障独身男(結婚歴なし)の存在していた記録

昨年読んだ本 – FACTFULNESS

昨年遅ればせながら「FACTFULNESS」を読んだ。実は昨年読んだ洋書はこれ1冊だけだった。毎年1月に今年は英語のペーパーバックを月1冊読むぞと思い、でも遅読みの私には無理なのであって、それでも何かしら読み進んで年数冊というのが例年のパターンなのだが。やはり昨年はいろいろ具合がよくなかったようだ。いや、出来なかったことを数えるのではなく、1冊読んだ達成感を大切にすべきだ…というグダグダはともかく。

 

洋書を読む動機の大部分は英語の勉強という(つまらない*)私が「FACTFULNESS」について言いたいことは1つ。英語が簡明で読みやすい。難しい単語は少なく洋書としてかなり読みやすい部類になるだろう。どれくらい読みやすいと感じるかはもちろん人によるだろうが、日頃ネットで英語ニュースを読んだり、仕事で英語マニュアルを読んだりする人ならさほど抵抗ない文章と思う。とは言え本は分量があって躊躇する向きもあろうが、朗報あり。「FACTFULNESS」単行本は342ページだが、最後70ページ余は参考文献と索引。ちょっと安心。まあ一気に読まなくても、1章ずつぼちぼち読んで行けばいい。
* 本来は本に書かれている中身を知りたいというのが動機だろうからね

 

読みやすい理由としては、1つには著者がわかりやすく話を進める術に長けているということがある。著者ハンス・ロスリング (Hans Rosling) はスウェーデン人の医者であり学者だが、世界各地で講演を重ね、下でも触れるがTEDで何回もプレゼンしている。プレゼンが上手い。もう1つには、英文ライター/校閲者によるところもあるようだ。謝辞にこのように書かれている。

If you found this book readable, it is thanks to Deborah Crewe. She was brave to take on three authors with way too much material. She listened hard to what we wanted, and then worked patiently and with great skill, speed, and humor, turning our eccentric Swenglish into what you have just read.

謝辞には多少の貢献でも最大限の感謝の言葉を書くものではあるにせよ、デボラさんがわかりやすい英語にしてくれたということはあったようだ。(スウェーデン人の癖のある英語はSwenglishと呼ばれると知った。)

 

英語もわかりやすいが、内容もおもしろく読める。邦訳「ファクトフルネス」が刊行された一昨年から日本でも相当話題になり、今ここで内容を説明するまでもないかもしれないが。私たちの多くが常識と思っている世界観、例えば世界は先進国と開発途上国に2分されていて途上国特にアフリカでは医療も教育も行き届いていないという見方。アフリカで医療に20年取り組んだ著者は公開されているデータをもとに、それが何十年も前の世界であり現在は異なっていることを示す。そしてなぜ私たちは先入観にとらわれるのか、バイアスを避けるにはどうしたよいかを説く。情報にあふれマスメディアが日々センセーショナルなニュースを報道する今の世の中で、惑わされないための指針を与えてくれる。

 

著者ハンス・ロスリングは、とても残念で悲しいことに、「FACTFULNESS」原稿執筆中の2017年に膵臓がんのため逝去している。(本の冒頭の短い著者紹介に記されているが私は気づかず、著者が目前で語りかけるように書かれている本書を楽しく読み終えた後、「あとがき」で彼が病に倒れたことを知ってすごく驚いた)。

 

しかしハンス・ロスリングをTED動画で見ることは出来る。そして本を読んで初めて彼を知ったならば、TED動画は絶対見るべきだ。彼の熱量とユーモアあふれる人となりに触れることが出来るからだ。

2006年の講演。

Hans Rosling: The best stats you've ever seen | TED Talk

この時点の講演ですでに本のエッセンスは語られている。また既にギャップマインダー財団(Gapminder Foundation)を「FACTFULNESS」共著者であるハンスの息子オーラとその妻アンナと共に設立しており、同財団が得意とする(そしてGoogleに買われた)動的かつ視覚的に統計値を示す手法も取り入れられている。

2007年のこちらの講演では、最後にハンスが剣飲み(sword swallowing)の実演をする。

Hans Rosling: New insights on poverty | TED Talk

「FACTFULNESS」本の冒頭でも紹介されている剣飲みだが、seemingly impossible is possible、つまり不可能に見えることも可能であることを実際に示すためにやってのける。講演者が演台でこんなことをしたら驚くよね。

どの講演も秀逸だが例えば2012年のトーク

Hans Rosling: Religions and babies | TED Talk

冒頭で宗教とセックスの話をすると述べ興味を引きつけ、統計データを示して女性1人あたりの子供の数と宗教は関係ないことを示し、人口問題を論じる。

この他の彼のどの講演もアイデアとユーモアにあふれ、彼の情熱が伝わってくる。

www.ted.com

 

ところで本の中でアフリカの貧困地域で見られる体が麻痺するkonzoという病気について触れられている。毒抜きが不十分なキャッサバを食べることが原因らしいが、病気とキャッサバとの関係を見出しkonzoと名付けたのが著者ハンス・ロスリング。というわけで本書を読んで著者の医学への貢献も知ることが出来るが、キャッサバといえばタピオカ。コロナ禍前に日本を席巻したあのタピオカの原料のキャッサバが有毒であることも知ったのだった。大流行したタピオカとベストセラー「FACTFULNESS」はキャッサバで繋がっていた、おもしろい。

 

紙の本で読む派にはペーパーバックも出ている。